この竹の入手時の第一印象は正直パッとしませんでした。外観もそれほど「吹き込まれた」という感じはなく、実際吹いてみてもごく普通の鳴りでした。ただ筒音（乙のロ）だけはちょっと張りがある音だったので少し期待が持てました。地無し尺八をここ半年で50本近く修復してきましたが、その過程で鳴りが著しく変化する竹が何本もあったのです。製作技術が未熟なアマチュアが作った竹は中の節が残り過ぎて凹凸が激しく「息の通り」を阻害しているものが多いです。また歌口も現在のよく鳴る尺八と比較すると舌面角が緩過ぎたり開口部の径が大き過ぎたり小さ過ぎたりします。歌口のエッジをアクリルで強化したり、エッジ周辺の削り方を変えるだけで「鳴り」は格段に向上します。この竹は最初に「外吹き」志向にしてみましたがうまく行きませんでした。そして方針を一転させて「内吹き」志向に変えてみると想像以上の変化がありました。俄然しっかりと充実した音が出るようになってきたのです。その音色は私の愛管に似ていました。

＊注 「外吹き」「内吹き」のついいてはいろいろな定義あると思いますが、私は息を「舌面を滑らせる感じ」を外吹き、「菅内にしっかり入れる感じ」を内吹きと考えています。また私の場合竹と唇の圧着度合いも後者の方が強めです。

学生時代からずっと使い続けている竹は二代目河野玉水の作品です。昭和50年製の「玉水」は音量こそ出ませんが音色が抜群に良いです。具体的にどういう音か表現しにくいのですが「私には合っている」のです。当時の尺八は伝統的な製管方法に少しずつ現代調律の要素が入り始めている過渡期でした。「玉水」も第３孔を小さめにしたりして音程を気にしていますが、基本的には「竹らしい鳴り」の方を重視していたと思います。現在の三代目は玉水工房の受け継がれた理念として「人の声に個性があるように竹の音にも個性があり、一本一本の真竹に対して無限の可能性を求め、音色・音味の個性を生かす」という考えをHPに明記しています。それは「地無し尺八」に通じる考え方だと思います。

尺八から音を出すためには「演奏者の口」が楽器の半分を占めているから、どんな尺八を吹いても似たような音になるという考えもあります。しかし今回の作品に関して言えば、これまで修復してきた８寸管の中では最も「玉水」に似た音が出ることは間違いありません。まあ、ちょっと聞いてみてください。https://youtu.be/tHZe-cveKb0

乙音に関しては演奏していてもほとんど差が感じられません。編集していても間違いそうになりました。甲音は玉水にやや優位性がありますが、全体としては酷似していると私は思います。ご注意願いたいのですが「外吹き」の方には今回の尺八は向かないと思います。「内吹き」の方がより「よい音」を出せる可能性が高いです。

【諸元】長さ540mm 重さ252g 頭部直径37mm   底部直径50mm 歌口内径縦20mm 横20mm エッジ深さ3.5mm 最大指孔11mm

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